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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)5488号 判決 1977年2月28日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一二三万〇、二八一円およびこれに対する昭和四九年七月一六日から支払ずみまで年六分の金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は訴外佐々木俊夫(以下「訴外佐々木」という)に対し、昭和四八年一月一一日金六三〇万円を弁済期昭和四九年一月三一日、利息年一割五分、遅延損害金日歩八銭二厘の約定で貸し渡した(以下「本件消費貸借」という)。

(二)  訴外佐々木は伸晃製作所の名称の下に電機部品の製造販売を業とする者であるが被告に対し、電機部品を売渡し、昭和四九年三月四日現在、金一二三万〇、二八一円の売掛代金債権(以下「本件債権」という)を有していた。

(三)  訴外佐々木は、同年三月四日原告との間で、本件消費貸借金とその利息および遅延損害金の弁済に代えて、本件債権を原告に譲り渡す旨合意し(以下「債権譲渡(一)」という)た。そして訴外佐々木は、同日附内容証明郵便でその旨を被告に通知し、右郵便は同月六日被告に到達した。

2(一)  ところが、訴外佐々木は、すでに同年二月一八日頃訴外林春夫(以下「訴外林」という)に対し、本件債権のうち一二〇万円を譲り渡しており、訴外佐々木は同年三月四日附内容証明郵便でその旨を被告に通知し、右郵便は翌五日被告に到達した。

(二)  訴外林は、同年五月二七日、本件債権のうち同人が譲り受けていた一二〇万円の部分を、訴外佐々木に対し無償で譲渡し、訴外林は同日附内容証明郵便でその旨を被告に通知し、右郵便はその頃被告に到達した。

(三)  原告は、同年七月六日、訴外佐々木より、本件債権のうち同人が訴外林より譲り受けていた一二〇万円の部分につき、更にこれを譲り受け(以下「債権譲渡(二)」という)、訴外佐々木は同日附内容証明郵便でその旨を被告に通知し、右郵便はその頃被告に到達した。

3  よつて、原告は被告に対し、右2の(三)の債権一二〇万円と右1の(三)の債権から右2の(一)の債権を控除した三万〇、二八一円との合計金一二三万〇、二八一円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四九年七月一六日から支払ずみまで、商事法定利率年六分の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)の事実は不知。

2  同1の(二)の事実は認める。

3  同1の(三)の事実中、前段の事実は否認し、後段の事実は認める。

4  同2の(一)の事実は認める。

5  同2の(二)および(三)の事実は否認。

三  抗弁(請求原因1の(三)に対し)

1  前記のように訴外佐々木は、昭和四九年二月一八日頃訴外林に対し、本件債権のうち一二〇万円を譲り渡した。

2(一)  訴外佐々木は、同年三月五日頃訴外西原正明に対し、本件債権を譲り渡した。

(二)  訴外佐々木は、同月五日頃訴外大商企業株式会社に対し、本件債権を譲り渡した。

(三)  訴外武蔵野社会保険事務所は、訴外佐々木が、健康保険料、厚生年金保険料および児童手当拠出金の支払を滞納したため、同月六日延滞金一、〇〇〇円を加えた総額二七万四、九一八円の滞納金につきこれを徴収するため、佐々木俊夫の被告に対する本件債権を差し押えた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は全部認める。

五  再抗弁(抗弁1、2に対し)

請求原因1の(三)の昭和四九年三月四日附内容証明郵便は同月六日午後〇時から午後六時までの間に被告に到達したものであるところ、抗弁1、2の債権譲渡につき、訴外佐々木は、抗弁1の債権譲渡については同月四日附の、抗弁2(一)の債権譲渡については同月五日附の、抗弁2(二)の債権譲渡については同月五日附の、いずれも内容証明郵便でそれぞれ債権を譲渡した旨を被告に通知しており、抗弁1の債権譲渡についての右郵便が被告に到達したのは同月五日であるが、抗弁2の(一)、(二)の債権譲渡についての右郵便ならびに抗弁2(三)の差押えについての債権差押通知書は、いずれも同月六日午後〇時から午後六時までの間に被告に到達したものである。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は全部認める。

七  被告は別紙記載の被告知人に対し訴訟告知をした。

第三  証拠(省略)

理由

一  本件債権につき

請求原因1の(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  債権譲渡(二)につき

請求原因2の(一)の事実については当事者間に争いがない。そこで請求原因2の(二)において原告が主張する債権譲渡契約の成立について検討するに、証人大野南、同佐々木俊夫の各証言中、原告の右主張にそう部分は措信し難く、証人佐々木俊夫の証言(前記および後記措信しない部分を除く)によつて真正に成立したと認められる甲第三号証(ただし、官署作成部分の成立は争いがない)、証人林春夫の証言によつて真正に成立したと認められる甲第五号証(ただし、官署作成部分の成立は争いがない)によつてはまだ原告の右主張事実を証するに足らず、他に原告の右主張事実を認むべき証拠はない。かえつて、冒頭の当事者間に争いのない事実、成立に争いのない乙第一〇号証および証人佐々木俊夫(前記および後記措信しない部分を除く)、同林春夫の各証言によると、訴外佐々木の経営する伸晃製作所は昭和四九年三月一日倒産したこと、訴外佐々木は沢田商会の名称の下に金融業を営む訴外林に対し金一二〇万円の貸金返還債務を負つていたところ、伸晃製作所が倒産した後訴外林は右債務の弁済に充てるため同製作所より工作機械を持つて行つたこと、その際これにより右債務は完済となるため、訴外佐々木の訴外林に対する同年二月一八日の本件債権中一二〇万円の債権譲渡につき、訴外林において、被告にした債権譲渡の通知を取り消す旨訴外林、佐々木との間で了解が成立したこと、訴外佐々木は同年五月二七日、訴外林に対し同人との間に一切の債権債務関係がない事の確認を求め、訴外林からその旨を記載した念書を受けとつた後、更に被告に対する債権譲渡の撤回届を出すことを求め、訴外林はこれに従つて、同日被告に対し債権譲受の撤回を通知する旨の内容証明郵便(乙第一〇号証)を送つたことが認められ、右各事実および当事者間に争いのない抗弁事実によると、訴外佐々木は訴外林との間で同人に対する前記債権譲渡を遡及的に解除する旨合意したものと認めることができる(証人大野南、同佐々木俊夫の各証言中、以上認定に反する部分は措信し難く、他に以上認定を左右するに足る証拠はない。)。したがつて、原告の債権譲渡(二)に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない(なお、債権譲渡(二)が認められ、それが独立のそれとみても、それに優先する債権譲渡のあること後記のとおりである。)。

三  債権譲渡(一)につき

成立に争いのない甲第一号証、証人佐々木俊夫の証言および原告本人尋問の結果によると、訴外佐々木は昭和四七年夏頃より、金融業を営む原告から何回かに亘つて金員を借り受け、その結果昭和四八年一月一一日現在原告に対し総額六三〇万円の債務を負つていたが、同日、原告との間で弁済期昭和四九年一月三一日、利息および遅延損害金各日歩二〇銭の約定で右債務を返済する旨を約した事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。証人佐々木俊夫の証言および原告本人尋問の結果ならびにこれらによつて真正に成立したものと認められる甲第二号証の一(ただし、官署作成部分の成立は争いがない)によると、訴外佐々木は、昭和四九年三月四日原告との間で、原告に対する前記債務の元利金のうちの譲受債権額相当分の弁済に代えて、本件債権を原告に譲り渡す旨合意したこと、原告が訴外佐々木との貸借関係開始当時、訴外佐々木の経営する伸晃製作所の倒産によつて前記債務が返済不能となる場合にそなえて、予め訴外佐々木から実印を押印させたうえ差し入れさせておいた白紙の内容証明郵便用紙に、前同日、訴外佐々木の承諾の下に同人が原告に本件債権を譲渡した旨を記載してこれを内容証明郵便に付したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そして前示のように抗弁事実は当事者間に争いがなく、また再抗弁事実も当事者間に争いがない。

以上の事実関係によると、原告において他の譲受人らよりも先に対抗要件を具備したこと(原告に対する債権譲渡(一)につき、確定日付のある通知が債務者たる被告に到達した日時が他の譲受人らのそれよりも先であること)につき主張、立証しない本件にあつては、原告は他の譲受人らに優先する地位を主張しえない結果、債務者たる被告に対し弁済を求めえないと解するのが相当であるから、原告の債権譲渡(一)の請求は理由がないというべきである。

四  よつて原告の本訴請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

被告知人名簿

1 東京都品川区荏原二丁目一七番一三号

大商企業株式会社

右代表者代表取締役 小倉文夫

2 東京都千代田区神田佐久間町二―七

大五商会こと 川崎勝

3 東京都新宿区百人町一―五―四

東洋実業こと 竹田守

4 東京都武蔵野市吉祥寺本町三―二八―一六

武蔵野社会保険事務所長

5 埼玉県越谷市瓦曾根三―二―一四

沢田商会こと 林春夫

6 東京都練馬区石神井台七―七―一七

伸晃製作所こと 佐々木俊夫

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